マチュー・アマルリック監督「さすらいの女神たち」

元町商店街四丁目元町映画館前「さすらいの女神たち」看板

映画というものはラストがびしっと決まるとすべてが決まります。逆に、そこまでは素晴らしい内容であってもエンディングがだめだとすべてが台無しとなり、記憶に残るのはその決まりきらなかったラストシーンのみ。個人的な例をあげるとあの有名な『ティファニーで朝食を』がそう。観客の望むであろうハッピーエンドに無理矢理持ち込んでしまい、カポーティの原作とは全く違う作品となってしまっています。で、この度鑑賞した『さすらいの女神たち』なのですが、このラストが実にかっこいい。もうこれだけでこの作品が大好きになってしまいました (写真:元町商店街四丁目の元町映画館前看板)

映画『さすらいの女神たち』はフランスの俳優マチュー・アマルリックが監督・主演をつとめるロードムービー。マチュー演じる元やり手のプロデューサー、ジョアキムはトラブルメーカーでもあったようで仏TV界をほぼ追放され、アメリカで見つけたニューバーレスクダンサー達を座頭として率いて凱旋(?)帰国、パリを目指しツアーの旅を続ける。ニューバレスクとは、キャバレーショーの一種で裸にはなるもののストリップショーとは一線を画しており、女性でも楽しめるようなショーのこと。彼らは果たしてパリへたどりつけるのか?彼らの旅はどこへと向かうのか?
劇中誰かが「肉体とユーモアと生命力があれば生きていける」と呟く。まったくもってその通り。都会では路上生活を余技なくされている人々を毎日のように目にする。屋根がちゃんとある状況で暮らしている多くの人はあのような暮らしをするくらいなら死んだほうがましかもしれないとまで思うかもしれない。でも、多くの路上生活者の方々は死ねないのである。それが生命力なのである。きっと人間のDNAに刻まれているものだろう。
『さすらいの女神』軍団はそこまではひどくはない。ダンサーの女性たちはジョアキムに向かって幾度となく「This is OUR show (これは私たちのショー)。あなたには口出しさせない」と誇りを持って言う。しかし、この姿が、つまり家族も持たず旅回りを続ける生活が、彼女たちが子供の頃に夢見た姿ではなかったはずだ。皆それぞれが人生どんづまりでここにたどりついたことは容易に想像できる。ジョアキムにしても、どさまわりの旅芸人のプロデュースをやりたくてやったわけではないだろう。生きるために見つけた自分に出来ることであったということなのであろう。こう書くと何か陰気な苦労話しのように聞こえてしまうかもしれないが、女性たちの明るさ、美しさ、力強さは圧倒的であり、彼女たちの顔に悲壮感はみじんもない。「We have to keep going」ただただ前進するのみである。一方ジョアキムと言えば、始終苛立ち どなりちらしている。彼はパリに凱旋したいのである。パリ公演を実現させるために嫌いな人間に頭を下げ、一夜をともにし(したのでしょうか?ここははっきりしませんが…)、殴られてつぶれたカエルのように道端に放り出される。華やかな表舞台への未練がまだわずかに残っているから現状に苛立つのだ。
そんなジョアキムがラストでわずかに変る。「女神」たちの一人(まだ観ていない人のために誰とは言いませんが…)に「抱かれ」、(陳腐な言葉ですが)癒され、涙する。偶然見つけた(であろう)廃墟でのシャンパンを開けてのひとときの休息。そしていよいよあのラストシーン。ジョアキムがこれまで(何故か)頑なに拒んできたあるものを自らの手で動かす。中年のおっさんの中でまた一つ余計な殻が取れたのだろう。
彼らの旅は大きな夢や野望を達成させるための旅ではない。様々な経験を経てきたこの大人たちはどこへも辿り着けないことを知っている。しかし進み続けるしかないのだ。目の前にあることをやり続け、笑いながら生きていくしかないのである。我々もそう。We have to keep going!なのだ。
私事で恐縮ですが、実は私も中年のフリーランスの身ゆえ常に収入の途絶える恐怖と闘っております。が、本作品を観て「まっだまだゴキブリになれるなっ!」と非常に勇気づけられました。昨日もゴキブリのように大嫌いな人間に頭を下げてきました!こうなったら死ぬまで生きてやろうと思います。

映画『さすらいの女神たち』は現在神戸・元町映画館で12月2日まで上映中です!あと2日しかありません!急げっ!

「さすらいの女神(ディーバ)たち」(原題:Tournee)
制作:2010年 フランス 111分
監督・主演:マチュー・アマルリック
出演:<ニューバーレスク>ダンサーたち:ミミ・ル・ムー、キトゥン・オン・ザ・キーズ、ダーティ・マティーニ、ジュリー・アトラス・ミュズ、イーヴィ・ラヴェル、ロッキー・ルーレット
公式サイト 元町映画館公式サイト


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