オノ・ヨーコは魔女である。一応断っておくが、私はオノ・ヨーコという女性が嫌いなわけではない。しかし映画『ジョン・レノン・ニューヨーク』を観ての感想はまさにこれ。彼女はかなり凄腕の魔女である。(写真:神戸市兵庫区新開地 神戸アートビレッジセンターの前にて)
作品の概要をまずは述べておこう。舞台は1971年~80年までのニューヨークが中心。ベトナム戦争への反戦運動、不当逮捕された平和活動家を救済するための大規模なコンサート、政府からの執拗な米国追放作戦、西海岸でのヨーコと離れての生活、そしてNYへの復帰とヨーコとの和解、子供の誕生、専業主夫、アルバム『ダブル・ファンタジー』の制作、そして12月8日のあの事件。これらを時系列にその中心にいた人々のインタビューとライブ映像、スチール映像などを交えて綴るドキュメンタリーである。
ジョン自身の声やライブ映像、未公開音源なども多用しており、ドキュメンタリーとしてはジョン・レノン・ファンならずともかなり楽しめる。ただ、ドキュメンタリーではお決まりのバストショットの知人のインタビュー(インタビューは何故ああもバストショットばかりなのでしょうか?)はほんの少しだけ邪魔で、私としてはライブ映像ばかりを観ていたくなったのですが…。
ここで冒頭で述べたオノ・ヨーコが魔女であるという点に戻ろう。映画を観て再認識したことは、オノ・ヨーコという女性がいなければジョンは現在の『伝説』にはなっていなかったのではないだろうかということ。そしてもしかしたらあの夜、凶弾に倒れることもなく、今頃ポールと仲良く並んでジョージの映画の宣伝に走り回っていたかもしれない(あくまで妄想)。彼女がビートルズ時代のジョンに魔法をかけ、何も見えなくし、自分の意のままに彼を操り巧妙に伝説を作り上げていったのだ。(ビートルズのかなり熱心なファンの方、ごめんなさい。これはあくまで今回の映画を観ての感想です)
彼女の魔女っぷりが最も発揮されたのが今回の映画でも相当の時間を割いて描かれていたジョンのロス時代、いわゆる『失われた週末』時代である。ヨーコに別離を言い渡されたジョンはLAに秘書のメイ・パンとともに移住、そこで酒びたりの荒れた日々を送り2年後にヨーコの元へ戻るわけだが、今までの映画やドキュメンタリー番組ではこの部分は「ジョンは毎晩飲み歩き、暴力事件を起こすなどすさみきっていた」程度の非常に簡単な説明で終わっていたように思う。しかしながら本作品ではポールやリンゴとのショットも含むこの時代の数々の写真や珍しいインタビューが紹介されている。その中で最も注目すべき存在が中国系米国人女性秘書のメイ・パンである。
メイ・パンはニューヨークでのオノ・ヨーコの個人秘書であり、ジョンのLA行きにあたりヨーコがその世話役として同行させた人物。映画の中でメイ・パンは「彼女(オノ・ヨーコ)が私に『ジョンとは別れたの』と言ったが、なんでそんなことを私に言うのかわからなかった」と述べているが、まあ、そのあたりははっきりとわかっていただろう。そう、「あなたがジョンの愛人となりなさい」という魔女からの指令である。実際、メイ・パンはジョンの恋人(愛人)としてLAで暮らすわけであるが、そこでのジョンは別人のように明るくなり生活はとても楽しいものであったという。彼女の有名な著書『ジョン・レノン・ロスト・ウィークエンド(Instamatic Karma)』に登場する彼の写真はどれも生き生きとしており、怖い魔女から開放されて羽を伸ばしているようにも見える。この頃ジョンは自宅に息子のジュリアンを招いており、その写真の表情もとても安定した良いものである。また、ジョンとメイは家を購入して二人で夫婦としての再スタートを切る計画もたてていたとか。(*この部分は映画では語られません) (写真:メイ・パン著『ジョン・レノン ロストウィークエンド』)
ジョンとメイが二人の家を購入しようとしていた矢先、エルトン・ジョンのライブ会場でジョンとヨーコは再会、そのままジョンはメイの元には戻らず再びヨーコとの生活が始まるわけであるが、オノ・ヨーコは映画の中でこのことをあたかも偶然のように語っている。「古着屋に入ったらシルクのとてもステキなアンティークの男物パジャマが売っていて、これを買えばきっとこれにぴったりの誰かいい人が現れるかも」と思ってパジャマを購入。後日よりを戻したジョンにそれを着せてみると「驚いたことにぴったりだった」と述べているが、「そら、あんた、ジョンのサイズめっちゃ知ってるやろ~!最初からそのつもりやろ~!」と突っ込みたくなったのは私だけではないはず。メイとジョンとの仲が深まり過ぎないうちに、そろそろあのやんちゃ小僧をこちらへ戻らせる頃だと判断していたのだろう。魔女の魔法であっさりとメイを捨てさせたのだ。
メイ・パンのインタビューや二人の写真を見ていると、ジョンはそんなに荒れていたようではなさそうなのに、周囲の描き方はいつも決まってあの頃のジョンはすさみきっていたというものだ。泥酔して車に押し込まれたジョンが叫ぶ言葉は決まって「ヨーコ、ヨーコ」であったとか。これも魔女の魔法によるもののように思える。ジョンはメイと恋人ととして暮らしているのに毎晩ヨーコと電話で話しをしていたという。なんとも奇妙な関係だ。メイに対する「調子に乗るなよ」というサインであろうか。ジョンに自分の名前を叫ばせるための魔法を毎夜かけていたのだろうか(くどいようだがあくまで妄想)。
今回の映画はオノ・ヨーコさんの全面的支援のもと作られたという。実際、映画の公式HPのスタッフ紹介を見てみると、なんと監督よりも前にオノ・ヨーコさんが派手に紹介されている。そんな彼女中心に作られた作品の中でメイ・パンをあれだけ出したというのは実に驚きであった。メイさんとヨーコさんはジョンの死後、ジョンの曲に登場する囁きをめぐって結構みにくい闘いを繰り広げたとか。映画の中でも本の中でもLAでの生活を楽しそうに語るメイ、魔女の魔法はメイには通用しなかったのだろう。
ここまでなんだかオノ・ヨーコがおそろしい女性であるかのようなことを書いてしまったが、最初にも断ったように、私は何も彼女が嫌いなわけでもないし、おそろしい人間だと言っているのでもないので誤解なきよう。それだけ魅力的(つまりそれだけジョンを魅了してしまった)にすぎないということだろうし、映画の中でも語られているように、じゃ他に誰がジョンの面倒を見れたのだ?ということなのだ。なお、ここに書いた多くのことはあくまで私の妄想および主観に基づくものですのでお許しを…。そして、そして、上の文章からは伝わりにくいので一言添えておきますと、ともかく、この日はとっても良い気分で新開地の夜道を歩いて帰りました!そして映画を観ている間はとても可愛らしいヨーコさんとジョンのショットに何度も涙しそうになったのでありました…!
今回の映画でキーとなるアルバム:
心の壁、愛の橋 [Limited Edition]
『失われた週末』期に制作。エルトン・ジョンとの共作の大ヒット曲『Whatever gets you through the night』、メイ・パンのことを歌ったのではないかとも一部で言われている『鋼のように、ガラスの如く』、ヨーコと離れた苦しみの表れといわれている『心のしとねは何処 』などを収録。
MIND GAMES (リミックス&デジタル・リマスタリング)
『失われた週末』期に制作。メイ・パンと暮らし恋人であったはずなのに、それでもジャケットはヨーコさん。本エディションはロンドン、アビイロード・スタジオにてヨーコさん立会いのもとリミックスされたもの。未発表のジョン・レノンによるデッサン、写真を多数収録。収録曲の未発表デモ3タイトルも収録。
Double Fantasy [Limited Edition]
LAでの『失われた週末』を経てヨーコの元へ帰ったジョンが専業主夫から音楽家へと復帰した第一作。これが彼の遺作となる。名曲『Starting Over』、『Watching the Wheels』、息子ショーンへの愛と優しさであふれた『Beautiful Boy』など、万が一にも未聴の方は是非!
2011/12/10 17:09 |
category : 映画レビュー |
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