松本人志 「VISUALBUM」 – 究極のリアリズム

ブルー・スリー、ひばりさん、裕次郎さん etc.と、多くのスターの方々が亡くなっても深く深く衝撃を受けることはありませんでした。皆、ずっと年上であり、歳が上の者から亡くなっていくのはある意味当然のことでありますから実感があまりないのかもしれません。でも、まっちゃんが死んだらちょっと受け入れるのが難しいかもしれません。そういうことですので本記事はもしかしたら客観性に欠けるかもしれません…(いつもそうですが…)

『ヴィジュアルバム』はダウンタウンの松本人志が98年~99年にかけて制作したコント・ビデオアルバムでありまして、りんご『約束』、バナナ『親切』、ぶどう『安心』の3本からなります。後に発売されたDVDボックスでは特典『メロン』がついていますが、こちらは見ていません。よって、以下に記すことはまっちゃん本人がこのメロンの中で述べていることとずれる可能性もあるのですが、あくまで私の個人的な想いということで…

ヴィジュアルバムについての愛を書こうと思いたったとき、他の人はなんて言ってるのかしら?とちょっと気になり検索してみましたところ、”シュール”という意見を多数発見しました。AMAZONのDVDボックス商品紹介でも「シュールで不条理なコントを満載」と記されています。私としては「えーっ!シュ、シュール???」と仰天 (何分、外部とのつきあいが非常に少なく、唯一の会話相手である相方も私以上のまっちゃんファンなので外の意見をよく知らないのです…本ビデオが出た頃は文系の人間はネットなんてほとんど使用しない媒体でしたので、外の意見や情報も簡単には入ってきませんでした…)。これは一体どういうことだろうということで、”シュールであること”の正体(ちょっと大袈裟)について少し考えてみました。

単刀直入に私の考えを述べさせてもらいますと、ヴィジュアルバムは”シュール”どころか、まさに”リアリズム”なのです。あそこに描かれているものは『狂気』でも『シュールさ』でもなく、普通の人間の普通の営みなのです。本人たちは真剣にやっているのに客観的に見るとおかしなことがこの世には沢山あります (というか、そんなことだらけです)。そのおかしげなことや言動を見聞きするとき、たぶん多くの人はその”異常さ”を見ないように、つまりある程度情報を選択して、見ているのではないでしょうか?ヴィジュアルバムではその”変な”部分を他よりちょっと (時にはかなり) 強調して、或いはアングルや設定を少しだけ変えて、我々に見せているだけです。あれは、まっちゃんの中に蓄積する、彼が幼い頃から見てきたおかしげな人々そしてその記憶の再現なのです。ただし、彼が選択して自分の中に蓄積してきた部分は普通の人ならわざと見ない部分です。多くの人は現実をつきつけられると不快感を感じます。これが本作品を『気持ち悪い』と呼ぶ人がとても多い理由の一つでもあります。本作品の画像を見ないで音だけを聞いてみると、かなりのものが”普通の”変な会話にすぎない、つまりとても”リアル”であることに気付きます。

ここで多くの意見が聞こえてきそうです:「『荒城の月』や『げんこつ』、あれがリアルか?!」と。はい、リアリズムです。ただ、設定や見せ方が通常とはちょっとだけ異質なだけです。あんな人たちは会社の中にもスーパーにも山ほどいます。

こう考えてみて、思い出したのはデヴィッド・リンチ。彼の多くの映画もこのヴィジュアルバム同様、たびたびシュールであると評されますが、彼が示しているものは幻想でも夢でも超常現象でもなく、まさにリアリズム。同監督の作品の中では比較的”見やすい”ほうであるとよく言われているのが『ワイルド・アット・ハート』でありますが、あれは逆に、シュールとまでは言いませんが、”作り話”であり、一貫して”おとぎばなし”を描いているから安心して見られるのです (ハッピーエンドだったでしょ)。

で、こう書きますと、なんだかヴィジュアルバムが非常に”コンセプチュアル”で難しく、片ほほでニヤリと笑うようないわゆる”考えオチ”のようなもののように思えるかもしれませんが、なんといっても本作品の素晴らしい点は、それでも大笑いできる点です。単にブラックユーモアや気味の悪いものを散りばめるだけなら誰でも (誰でもは言い過ぎかな) できるかもしれません。あくまで、最終的には”大笑い”できなければ意味がないのです。また、大笑いできる大きな理由として、登場人物に対するまっちゃんの愛情が一貫して感じられるということがあります。単なる嘲りであったら私も多分笑えなかったのではないかと思います。

本稿を書くに当たっては本当はコントと漫才の違い、そして松本人志のコントとその他のコントの違いを中心に、本3部作の中から大のお気に入りのコントを例に書こうかと考えていましたが、ここまででやや長くなってしまいましたので、それはまた次の機会にします。ちなみに私の一番のお気に入りは『ZURU ZURU (ずるずる)』です!

*ブログ『Days in the Bottom of My Kitchen』2010.12.14掲載

      
DVDで再確認!左よりHITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol.(リンゴ)“約束”,Vol.(バナナ)“親切”,Vol.(ぶどう)“安心”(各2190円),HITOSHI MATSUMOTO VISUALBUM “完成”(7203円)

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